13 今を生きる我々への贈りもの

size:212mm×153mm×46mm 372ページ

<作品の説明>
丸背山羊革両袖装 純金箔三方金 夫婦函入り
2012年8月8日石文社発行『新訂 先祖の話』柳田國男著の改装本
淡路島産玉葱の皮と大根の葉を漉きこんだ阿波紙
「染の安坊」の職人本染め豆絞り手拭いを使用

数ある柳田國男の著書の中から大東亜戦争終戦直後に発刊された『先祖の話』を選んだ。
この作品はのちに柳田自身の米寿祝いや五七忌の法要にも柳田家が私家本として復刊し関係者に贈呈している。
新訂本の帯にも「柳田『神観念』の総決算の書」とあり、それだけ柳田や家族にも強い思いがあった著書に違いない。

先祖というのは、過去から今の自分を経て未来へつなげていく「縦」の流れと、今の自分と同じ時代に生きる共同体としての「横」のつながりが織物のように紡がれていることから成り、先祖は神であり日本そのものでもある。
そこで改装本も「日本」を意識したものにしつらえた。

表紙は全体を和本風両袖装にし、エンボスで日本列島を細工した。
表紙のクロスには大根の葉を漉いた萌木色と玉葱の皮を漉いた桜色の阿波紙を使用。
萌木色は緑豊かな大地を、桜色はその大地を暖かく包み込む桜花をイメージしている。
至極色の山羊革をそれら阿波紙の両袖に据えた。
折り帖をつなぐかがり糸も同じ至極色の絹糸を使った。
表紙のタイトルは所有者自らが最後に筆を入れられるように、題箋部分を敢えて空白にしてある。

見開き中央に日の丸を施した遊び紙を表裏に加え、日の丸が本文を守る。

夫婦函の表は手作りの熨斗と水引をデザインし柳田國男渾身のこの作品が現在や未来に生きる我々日本人への贈りものとした。
内箱には日本古来の模様で職人による本染めの豆絞り手拭いを裏打ちして使用し「厄除け・健康祈願」の意を込めた。

<エピソード、制作時の事等>
「先祖」と「日本」への敬意を本に込めたく、純金箔の三方金に初めて挑戦した。
製本工房の先生にご教授をお願いし武漢ウイルス禍であるにもかかわらずご承諾いただき、ご指導を受けながらまる2日かけて三方金を完成させた。
天候に恵まれて順調だった1日目と違い、2日目は湿気も災いしてやり直しが発生した。
最後のやり直しでは天金に一部小さな剥がれが発生したが、私自身のその時の気力と今後の工程スケジュールを考慮し、心残りではあったがそれ以上やり直しはせず、完了とした。

表紙の日本列島は、当初列島曲線にくり抜いたボール紙の上から和紙をかぶせてエンボスをする予定であったが、曲線があまりにも細かく曲線が現れてこない恐れを感じたため、くり抜いたボール紙の縁(ふち)そのものを見せるエンボスに方針転換し、ネイル用金粉を糊で練ったものを列島の縁に塗ってコーティングした。
ボール紙上にくり抜いた列島型の線を基準に、それより少し外側の線に沿って和紙を細かく切り抜いた。
両者を貼り合わせる際に互いの列島曲線がずれないようにするのに苦労した。

<自己紹介>
古書店巡りをして気に入った古本を購入しているうちに、傷んだ古書を自分で修理したくなり製本の勉強を始めました。
これまでずっと会社員として「士農工商」の「商」の人生だったので、製本を通じて「工」の面白さに目覚めました。
自分好みのデザインや形に修理して愛蔵書に変身させるわくわく感を楽しんでいる一方、1ミリの違いで仕上がりが大きく違ってくる「工」の世界で、日々自分の仕事に対する向き合い方と重ね合わせながら反省しつつ自己鍛錬しています。

 

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9 コメント

  1. そらまめ書林

    三方金!私にはできません。すごい。ギャルドブランシュ?のところが日の丸になっていたり箱に水引が組み込まれているのも面白いと思いました。

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  2. せつ

    日本人誰にとっても親しみがある豆絞りの豆の模様が「目」を連想する柄で魔よけの意味があるのを初めて知りました。

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  3. YUKA

    熨斗と水引のデザインや表紙の日本列島の細工、見開きの日の丸などから、”未来に生きる我々日本人への贈りもの”としてのイメージが伝わってきました。また三方金が高貴な印象でとても美しいです。金付けできる製本会社も減ってきていると聞いたことがありますので、ご自身で丸2日かけて挑戦されるなんて素晴らしいと思いました。

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  4. まさこ

    作品のテーマと作品から日本愛が伝わってきます。繊細な装飾、丁寧で正確な作品づくりだな、と感動しました。色合いもとってもきれいです。贈り物を大切にしようという気持ちになりました。

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  5. ひだい

    三方金はお見事。きれいで格好いい。
    もっとも、それが作品全体として見たときに成功しているとは言い難い。要素を盛り込み過ぎて、ちぐはぐな感じがしてしまう。とくに箱。三方金の書籍を収める箱が豆絞りとは……。「日本」を強く押し出しているわりに、日本の美意識に関する思想や敬意が感じられません。
    また題箋は「所有者自らが最後に筆を入れられるように……敢えて空白にしてある」とありましたが、では箱には入れたのは? そもそも所有者は本にみずから題字を書きたいと思うものなのでしょうか? 少なくともわたしは題字も本のデザインの一部であり、製作者には責任と自負を持って入れてほしいと思っています。
    前面のデザインこそよかったものの、総じて箱はない方がよかったと思います。

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  6. 会場コメント

    デザインはシンプルだが、作品は後代への贈り物だと考えると、その祝祭的な意味が伝わり、嬉しい気分になる。

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  7. 会場コメント

    本金三方金、つなぎ表紙など、技術としては消滅しそうなものである要素が含まれている。

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  8. 会場コメント

    金箔加工、苦労が伝わります。すばらしい。

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  9. 福永まゆみ

    水引きのついた夫婦函を開けると、表紙の桜色の中に描かれた緑の日本。本をひらけば、日の丸、金箔がきれいで、素敵な作品だと思いました。

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