79 柳田國男作品集(全五巻)

size:228mm×165mm×163mm 1700ページ

<作品の説明>
複数の本を統一デザインで、「もし、実際に出版社から柳田國男全集の装丁デザインを依頼されたら?」をコンセプトに作りました。
レイアウト:LaTeXで制作
印刷:Canonのレーザープリンタ
本文用紙:淡クリームキンマリ72.5
表紙、箱の素材:麻布を裏打ち
タイトル:ブラザーミシン「パリエ」の刺繍機能を使用

<エピソード、制作時の事等>
(会場のキャプションより長く書きました。2600字ほどあるのでどうぞお時間のある時にお読みください。)

〈基本のコンセプトについて〉
「柳田國男」というテーマを聞いたとき、「青空文庫でテキストをいただいて、印刷し、それを本にする」という基本方針は、即決まりました。
問題は、「どの作品を本にするか」ということでした。これは、「柳田國男は作品が多すぎて選べない」という意味ではなく、「他の出品者と重複するような作品は避けたい」ということです。
有名な作品、たとえば『遠野物語』を選んで作ると、どうしても他の人と被るだろうし、するとどうしても比較されてしまう。そうしたとき、他の方より個性のある作品を作る自信はありませんでした。一方で、有名ではない作品を本にするのはモチベーションが上がらないし、なによりも、「これなら誰とも重複しない」という保証のある作品はないわけで、そのことにずいぶん悩みました。
結果的に他の人とかぶってしまうのは仕方ないことですが、できるだけ避けたい、しかしどれを選んで本にしても、他の出品者とかぶってしまうような気がする……。しかし、ふと、「2冊作れば、2冊ともかぶる、ということはないんじゃないか?」と思いました。「2冊……3冊……いっそのこと5冊くらい作れば、他の人とすべて被るということはないだろう」と。
最終的に、「もし、実際に出版社から柳田國男全集(作品集)の装丁デザインを依頼されたら?」をコンセプトに、5冊、デザインを統一させ、全集テイストにして作ることにしました。そして、出版されている本などを参考に、有名そうなものを5冊分選びました。

〈デザインについて〉
デザインで心がけたことは「地味・和・品格」といったことです。
柳田國男の世界観から考えて、派手な本は少し違うような気がしたし、全集の購買層を想定した場合、大学の研究室や図書館に買われることが多いだろうから、そういう場所にふさわしい品のある本にしたい。だから、「地味でシンプル」なほうがいいだろうと思いました。
また、今回は派手になりがちなドイツ装で作りたかったので、色はより落ち着いたものを選ぶ必要があると思いました。さらに日本の民俗学者なのだから日本的な色を。
その結果として、紺と生成の色を活かすこと。また、この2色以外は使わないシンプルさを心掛けました。
(ただし1ヶ所だけ、目に入らない箱の内側だけ柄のあるものを使いました。松坂木綿という柄だそうです。品のある日本的な柄だったので、使ってみました。)

〈製作について〉
今回は2つ、1つは「丸背のドイツ装を作る」ことと、もう1つは「ミシン刺繍を使ってタイトルを入れる」ことに挑戦にすることにしました。

まるみず組の基礎コースでは「丸背」も「ドイツ装」も習いましたが、「丸背のドイツ装」は習っていません。でもいつかはやりたいな、と思っていて、そのうち応用コースとして教わろうと思っていました。
今回、初めは普通の丸背の本を作る予定でしたが、コロナのせいで締め切りが延びたため、思い切って、とにかく自力で考えて「丸背のドイツ装」を作ろうと決めました。とにかくとにかく、ずいぶん悩みました。何度も先生に訊こうかと思いましたが、諦めるのもシャクなので、何とか頑張りました。今この文章を書いている時点では、自分の方法が「正解」だったのかどうかはまだわかりませんが、一応、形にはなったと思います。

つぎに、「ミシン刺繍」についてですが、今までタイトルをつけるということに関しては、まるみず組の基礎コースで「題箋を貼る」ことと「ホットペン」を習いました。どちらも嫌いじゃないのですが、いつか文字刺繍した布を使いたいと思っていました。ところが、(ご存じの方も多いかもしれませんが)「刺繍ミシン」というのは安くても百万円以上するものであると知り、まったく諦めていました。しかししつこく調べていくと、かなり機能が制限されるとはいえ、家庭用の十万円ほどのミシンで文字刺繍ができるものがあることを知りました(ブラザーミシンの「パリエ」という機種です)。今回、コロナの影響で十万円が給付されたため、これを幸いに購入することにしました。そもそも、ミシンに触れること自体が生まれて初めての経験であり、「ボビンとは何か?」というところから始めたので、戸惑いの連続でした。しかも、やはり刺繍は家庭用ミシンでは機能的にかなり制限があり(例えば、文字の大きさはこれ以上小さくできないうえに、一度に刺繍できるのは多くて7文字まで、など)、かなりめげることも多かったです。それでも完成したのを見ると、やっぱりやってよかったなと思います。

以上のような、2つの挑戦があったこと、また、昨年までの反省から、今年はちゃんと「試作品」を作ったうえで制作しました。そのおかげか、だいぶ落ち着いて制作できたと思います。今までもやっておくべきだったと思いました。

〈完成した作品について〉
(1)
落ち着いてかがれるようになったことなど、昔より成長した部分もあります。しかし、やはりまだまだ残念な点はあります。細かい点を挙げるときりがないかもしれませんが、「試作品」のときは上手くできたのに、という部分もあります。
また、1冊だけなら目立たないことも、似た作品を5冊並べると目立ってしまうこともあります。例えば、「あれ? この1冊だけ少し斜めじゃないか?」というように。
あと、箱。箱に対する苦手感が出てます。「機械のように正確に機械のように正確に機械のように正確に……」と呪文のように唱えて作ったのですが、悪い意味で手作り感が出てしまっています。まだまだ機械のような正確さにはほど遠いです。
(2)
そもそも初めに決めた「もし、実際に出版社から柳田國男全集(作品集)の装丁デザインを依頼されたら?」というコンセプトから振り返ると、デザインは自分では気に入っています。もっとも、実際に出版されるにはコストがかかりすぎかも(笑)
(3)
以上、いろいろ反省や上手くいかなかったところはあります。しかし、今まで3回提出させていただいたコンクールの作品はいずれも「習ったことの復習」という範囲で作りました。それに比べ、今回は自分で決めた挑戦をやり遂げることができたので、達成感は今までより大きいです。また、5冊の本を一気に仕上げたという達成感もあります。苦労させられたミシンも、今はねぎらってやりたいと思います。
あとは、叶うものなら、亡き柳田國男先生の感想をお伺いしたいところです。苦笑いしつつも喜んでくれるんじゃないかと思っているのですが。

<自己紹介>2016年の秋からまるみず組でお世話になっています。今は、月に1、2回教室に来て、パッセカルトンを習っています。コンクールは今年で4回目になります。

2017の作品:『十の話 』

07 十の話


2018の作品:『改装本:イタリア民話集 』

16 改装本:イタリア民話集


2019の作品:『私家版:平家物語 』

75 私家版:平家物語

よろしくお願いします。

スキル

投稿日

3 コメント

  1. 会場コメント

    刺繍のタイトル、色使いに統一感があり、丁寧に作られていて驚きました。

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  2. 会場コメント

    刺繍タイトル!

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  3. 会場コメント

    刺繍に驚いた

    返信する

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