size:178mm×89mm×143mm 744ページ
<作品の説明>
岩波文庫の『遠野物語・山の人生』と『海上の道』の二冊を改装したものを一つの函に納めています。
函の背中内側には、中心に抱え込むようにして『故郷七十年』から柳田國男の幼少期の神秘体験を抜粋したものを生やしました。
数ある本から二冊を選んだのは、現在はまっている小説の影響で、「山」と「海」の異界性に興味があったからですが、結果的に柳田國男の初期と晩年の一対を並べることができたように思います。
「山」の帙は胎内信仰、小口は炭焼き小屋、「海」の帙はヤシの実、小口は海上異界をイメージして絵付けしましたが画力が足りませんでした。
函の表側は、抑えた色味でケ着っぽく、また背守りを施して常民の民俗感を、内側は黒と赤と白で、日常でないハレ空間のイメージで制作しています。
【素材】結城紬:外函と「山」の帙、樹のシート(松):「山」の背、鮫革:「海」の背、出雲和紙:帙の内貼りや見返しのマーブリング、中綴じの本文、他、民芸紙など。
<エピソード、制作時の事等>
柳田國男があまりにたくさんのことに言及しているため、最初に何を作るか決めるところで躓きましたが、興味を緩く関連させながら詰め込んでいく方が民俗学らしいかなと思い、ひたすらの足し算で作りました。
計算間違い、布の厚みの誤算、左右・天地の反転で切り出しや穴あけを間違えて布の裏打ちからやり直す、絵が描けない、和紙の扱いなどで、失敗に失敗を重ねましたが、思うところはほぼ詰め込めたのと、毎回コンクールのときは時間が足りずに断念していた函を目一杯作ることができたので満足です。
<自己紹介>
製本屋で丁合見習いを始めて、1年半と数ヶ月が経ちました。
コンセプトも良く練られていて作品の作り込みもよく考えられていてバランスもよくきれいなデザインで素晴らしい!
ひとつひとつの完成度がすごい。基本はもちろん、マーブリングも花布も本当にきれい。小口の絵付けなんて、挑戦しただけでも称賛ものなのに、できばえがまた素晴らしい。
1冊でも充分だろうと思ったのですが、〈説明〉を読んで、作者にとっては必然の組み合わせだったとわかりました。そしてすべてを箱(この構造がまたおもしろい)にきちんと収めている。そのセンスと構成力……さすがです。
色をたくさん使っているのに全体に調和があり品のある作品。
とてもユニークな造りで、楽しい作品、細部にこだわりを感じます
文庫を美しく改装してあるのが画面から伝わります。
箱の仕掛けのアイデアと構造を考える力がすばらしいです。
小口、布、製本一つ一つとても工夫されていて、丁寧な作りですごいです。
アイデアと布の選び方がすてき。
細かいところまで手をかけてあり、すばらしいと思いました。
2冊でついになっている点、アイデア、技術、全てが高く完成されています。
それぞれの本の表紙と裏の柄が、ずっと眺めていたいと思うような景色みたいでした。
文庫本の改装をベースに帙/外箱を使って、ここまで丁寧に世界観を創り上げていることに感銘しました。